離婚後、住宅ローンの支払いを確保するには?
(事例)
・結婚期間中に分譲マンションを購入
・名義(登記)は夫
・住宅ローンの債務者は夫(妻が連帯保証人)
離婚後、「マンションの名義を妻に変更し」「妻と子供がそのまま住み続け」「住宅ローンは元・夫に支払い続けてもらう」という希望をお持ちの方もいらっしゃると思います。
このような希望は、離婚公正証書を作ることで叶えることができるのでしょうか?問題になるのは次の3点です。
まず、このような希望は、夫にとって一方的に不利であることから、夫に当然要求できるわけではありません。離婚後、夫とは他人になります(子供の親であることは変わりませんが)
他人にローンを払ってもらって、無料でマンションに住み続けるというのは、かなり「上手い話」ですよね?
その人の厚意によるならともかく、当然に要求できるものではないことは理解できると思います。
もちろん、離婚の際は夫婦間で財産分与をしますので、妻としてマンションの持分を一部譲るように請求することはできます。
しかし、「名義を妻に変更すること」や「ローンを夫が払い続けること」まで請求できるわけではありません。
夫と話し合いをして、夫の理解を得ることが不可欠なのです。
では、どうすれば夫の理解を得ることができるのでしょうか?
夫の側の都合で離婚したがっている場合は、交換条件のような形で持ち出すことで、理解を得やすくなるでしょう。
夫としては、条件を受け入れないと離婚してもらえないからです。
逆に、妻は離婚したいが、夫は出来るなら離婚したくないと思っているケースは難しくなります。
夫からすれば、妻が離婚したいと言い出したくせに、ローンは払い続けろというのはムシが良すぎる!というわけです。
こういうケースでは、子供のためであることを強調して夫の情に訴えたり、ローンの一部を妻が負担するよう提案するといった譲歩も必要になります。
夫が住宅ローンの支払いをしている間に、マンションの名義(登記)を妻に変更することはできるのでしょうか?
別に名義にはこだわらないという方もいるでしょうが、名義が元・夫のままということは、元・夫が自由にマンションを処分(売却、他人に賃貸するなど)できるということです。
勝手に処分をされたら、元妻と子供はマンションを出ていかなければなりません。
やはり、安心してマンションに住むためには、名義を変更しておくに越したことはありません。
住宅ローンの契約書をよく読むと、「ローンの支払期間中に名義を変更する場合は、まず金融機関に連絡して承諾を得てください」「承諾を得ずに名義を変更した場合は、ローンを一括請求することがあります」といった内容の条項が入っていることがあります。
銀行・金融機関の承諾を得るだけなら簡単に思えますが、実際はなかなか承諾をしてくれません(ローンの債務者とマンションの所有者が異なるのは好ましくないと考えているのでしょう)
だからと言って、承諾を得ずに名義変更すると一括請求が怖い・・・ということで、どうすれば良いのか悩むところです。
一つの方法として、「まず仮登記をして、ローン完済時に本登記をする」という方法もあります。
仮登記というのは、簡単に言うと「名義変更(登記)の予約」のようなものです。これなら名義変更したことにならないので、金融機関の承諾もいりませんし、ローン完済時には名義変更をしてもらえます。
これは一見良い方法に思えるのですが、ローン完済の時期が20〜30年先の場合、名義変更も遠い将来の約束になってしまいます。
それでも構わないという方は、仮登記の方法を選択しても良いでしょう。
先のことは不透明だから、なるべく早く名義を変更しておきたいという方は、離婚後すぐに名義変更の手続きをすることです。
前に「金融機関の承諾を得ずに名義変更すると、ローンの一括請求をされることがある」と述べましたが、それは書面上の話であり、実際にそういう事態になることはほぼありません。
銀行・金融機関としては、ローンの支払いさえきちんと続いていれば、名義が誰に変更されても構わないというのが本音だからでしょう(ちなみに、マンションに付いている抵当権は、名義変更しても付いたままです)
金融機関で住宅ローンを組むと、マンションには抵当権が設定されます。抵当権というのは、ローンの支払いを担保するための権利です。
ローンの支払いが滞った場合、抵当権を行使することにより、マンションを差し押さえて競売にかけることができます。
競売でマンションが落札されたら、その落札金がローンの支払いに充てられます。
この抵当権という権利は、名義を変更してもそのまま付いてきます。
つまり、元・夫がローンの支払いをしないと、マンションの名義が妻であっても、差押え・競売にかけられてしまうのです。
マンションが差押え・競売にかけられるということは、妻と子はマンションから追い出されるということです。
元・夫がきちんとローンを支払わないと、妻が立て替え払いしない限り、妻と子は住む場所を失ってしまう・・・。
これはとても不安なことです。
それでは、元・夫に、確実に住宅ローンを払わせる方法は無いのでしょうか?
一番良いのは、住宅ローンを一括返済させることですが、そのような大金を用意できる家庭はごく少数でしょう。
残念ながら、100%確実に住宅ローンを払い続けさせる方法はありません。
最終的には、元・夫を信じるしかないのです。
信じられないから離婚をするのだと言われればその通りでしょうが、このような条件(ローンは元・夫に払ってもらい、妻と子は無償でマンションに住み続ける)を望む以上、ある程度の不安定さは受け入れるしかありません。
そのうえで、住宅ローンの支払を確保するため、出来る限りの手段を講じていくことです。
そのために公正証書で出来るのは、事前・事後の求償権(きゅうしょうけん)を記載しておくことです。
前に述べたように、元・夫が住宅ローンを払わない場合、放っておくとマンションが差押え・競売にかけられてしまいます。
それを避けるには、連帯保証人である妻が一時的に立替払いをせざるを得ません。
この立替払いをした分を、後から元・夫に請求する権利を「事後の求償権」と言います。
そして、立替払いをする前に、金融機関に支払うべき金額を妻に払うよう請求する権利を「事前の求償権」と言います(この場合、元・夫⇒妻⇒金融機関という流れで支払いが行われます)
事前の求償権というのは、回りくどくて分かりにくく感じるかも知れません。
ですが、事前の求償権を公正証書に記載しておけば、いざというとき強制執行(預金や給与の差押え)が出来るというメリットがあります(※事後の求償権では強制執行できません)
事前の求償権を記載する場合、一つ注意すべきなのは、住宅ローンの金利が「固定金利」と「変動金利」のどちらなのかです。
「変動金利」の場合、事前の求償権を記載しても、金額の一定性を欠くことから、強制執行ができないとされています。
(変動金利の場合でも、金利分を除外するなどの方法により、強制執行ができるという見解もあります)
なお、妻が連帯債務者の場合は、原則として事後求償権のみの記載となります。
住宅ローンの支払いを確保するもう一つの方法は、「夫→妻→金融機関」という流れで支払いをすることです。
「夫→妻→金融機関」という支払い方法については、こちらの記事をご覧ください。
サイト運営者
花田好久(はなだよしひさ)。行政書士。1975年2月生まれ。既婚。福岡県出身。東京都八王子市在住。
離婚・不倫問題専門の行政書士として、開業以来100件以上の離婚公正証書作成に関わる。